格9位と10位の間に窒素原子を導入し, 環を14員環から15員環に拡大したアザライド系マクロライド ..
マクロライドは、アミンまたは中性糖が結合したラクトン環から構成されており、ラクトン環の構造により14員環、15員環および16員環に区別されます¹⁾。マクロライドの一種であるエリスロマイシンAの構造式を見ると14員環のラクトン環に二つのデオキシ糖が結合しています(図1)。
14員環、15員環マクロライドが抗菌作用以外に、低濃度で生体側に働いて
▲図1.エリスロマイシンAの構造式
14員環マクロライドとしてはエリスロマイシンのほか、クラリスロマイシンやロキシスロマイシンなどがあり、15員環マクロライドとしてはアジスロマイシン、ツラスロマイシン、ガミスロマイシンなどが、16員環としてスピラマイシン、タイロシン、チルミコシン、ミロサマイシンなどが知られています。
一般的にマクロライドは肺への移行性が良いことから主に呼吸器感染症の治療薬として使用されており、主にブドウ球菌などのグラム陽性菌やマイコプラズマ、クラミジアなどのほか、ヘモフィルスやカンピロバクターなどの一部のグラム陰性菌に対して抗菌力を示します。その機序は、細菌のリボソームの50Sサブユニットに選択的に結合し、ペプチド転移反応を阻害することにより、タンパク質合成を阻害することによります。また、リンコマイシンやクリンダマイシンなどのリンコマイシン系抗生物質は、マクロライドと化学構造はまったく異なるものの、作用部位及び作用機序はマクロライドと同様で、リボゾームの 50Sサブユニットに結合してペプチド鎖の伸長を阻害するため、マクロライドとの交差耐性や作用部位の競合が認められ、作用部位が同じストレプトグラミン系と合わせて、Macrolide-Lincosamide-Streptogramin B class(MLS)とも称されています。
一方、マクロライドは先に述べた微生物に対して抗菌力を示すほか、様々な機能を有していることが知られています²⁾。例えばエリスロマイシンは抗菌作用以外にも消化管運動機能亢進作用を示すことです (表1) ³⁾。
IgEの測定法には,IgEに対する特異抗体を用いて血清中に存在するIgEの総量を測定するRIST法(Radioimmunosorbent Test)と,アレルギーの原因となる抗原(アレルゲン)に対する特異なIgE量を測定するRAST法(Radioallergosorbent Test)やMAST法(Multiple Antigen Simultaneous Test)等がある。アレルゲン特異的なIgE抗体は,肥満細胞や好塩基球に付着しており,アレルゲンが体内に侵入すると,抗原抗体反応が生じ,その結果ヒスタミンなどの化学伝達物質が細胞から放出され,Ⅰ型アレルギー反応(即時型アレルギー反応)が発症すると考えられる。アレルギー性疾患ではRIST法でIgE総量を測定してアレルギー体質の有無や症状の度合いを調べると共に,RAST法やMAST法等でアレルゲンの同定を行うことが重要である。
クラリスロマイシンは 14 員環マクロライド系抗生物質である。粉末試料しか得られないために
これは消化管蠕動ホルモンであるモチリンのアゴニストとして作用することによります。このことからエリスロマイシンとその誘導体をモチリン受容体作動薬(モチライド)と称されることがあります。モチライドとしてのエリスロマイシンは、感染症治療に用いられる用量より少量で十二指腸平滑筋のモチリン受容体に結合し腸管蠕動運動を起こすとされています。またエリスロマイシンは難治性である慢性のびまん性汎細気管支炎に有効であることが知られています。
この病気は、肺胞に繋がる気管の末端である呼吸細気管支を中心に慢性の炎症を起こす病気で、発症の詳しい原因は分かっておらず、治療法も確立していませんでした。1987年に日本の医師が理由は分かりませんがエリスロマイシンを少量長期投与することで症状が改善することを報告し注目されました。当初は学会発表も不評で無益な治療と批判を浴びたようでしたが、追試でもこの治療法の有効性が確認されました。この作用は本来の抗菌作用ではなく、慢性気道炎症を取り巻く免疫炎症細胞を介する抗炎症作用を誘導することで、好中球の血管内皮への接着を抑制したり、IL-8の遊離を阻害することによるとされています。現在では気道炎症の改善を目的に、マクロライドの少量長期療法(半年から2年以上服用)が一般的な治療法となっています。一人の医師の奇想天外な治療法が難病に一筋の光明を与えた事例として大変興味深く思われました。
さらにマクロライドの細菌に対する作用で注目されるのは、本来抗菌作用を示さない緑膿菌に対して低濃度の接触により、病原性の発現を制御することです。これはクオラムセンシング(Quoram sensing)機構と呼ばれ、生体内で緑膿菌が自らの数が優位になったということを感知して、病原因子の発現を一斉に開始するシステムになります(図2)。
アントシアニンとは,赤,紫,青色などを呈する天然の色素で,ブルーベリー,ビルベリー,ブドウ,イチゴ,赤キャベツ,ナス,紫芋等の植物に含まれる,抗酸化作用を有するポリフェノールの一種である。目の網膜にあり視神経の働きを支えているロドプシンという色素の再合成を促進して,目の疲労を回復し,視力を向上させる。また活性酸素の生成抑制作用により,動脈硬化や血栓症の防止,虚血性心疾患,脳血管障害,がんの予防効果があると言われている。その他毛細血管の保護・強化作用,抗潰瘍・抗炎症作用等が示唆されている。
[PDF] マクロライド抗生物質 クラリスロマイシンの製造研究
脂肪細胞が分泌する生理活性物質(アディポサイトカイン)の一種である。アディポネクチンは筋肉・肝臓でのインスリン感受性増強,血管内皮細胞障害の修復作用を介して抗糖尿病作用や抗動脈硬化作用などを示す。肥満の程度が強く内臓脂肪の蓄積量が多いと分泌量が減少して血中濃度は低下し,逆に減量によって増加する。血中アディポネクチンの低下によりインスリン抵抗性が増大して糖尿病を発展させ,動脈硬化も同時に発症・進展する可能性がある。アディポネクチンはメタボリックシンドロームの内因性防御因子である。
▲図2.緑膿菌におけるクオラムセンシング機構の基本構造⁴⁾
緑膿菌の持つI遺伝子は、autoinducer合成酵素によりホモセリンラクトン(HSL)と呼ばれるホルモン様のautoinducerを合成します。HSLは細菌外膜を自由に通過できる分子で、環境中の細菌濃度が低い場合は希釈され生物活性を示しません。
ところが、緑膿菌の増殖が進むと菌体内外のHSL濃度が高まり、R-遺伝子産物(転写活性化因子)の結合が加速します。この複合体が標的遺伝子の転写制御領域に結合して、各種の病原因子な遺伝子の発現を促進することになります。その結果、菌体毒素の産生を抑制したり、バイオフイルムの産生を抑制したり、菌の細胞への付着を抑制することになるのです⁴⁾。また、HSLは生体細胞に対しても重要なシグナルを送り、IL-8産生を誘導したり、TNF-αやIL-12の産生を抑制することも報告されています。このような緑膿菌の病原性発現に関与するクロラムセンシング機構に対して、15員環マクロライドであるアジスロマイシンが抑制効果を示すことが知られています(図3)⁵⁾。
は、ヒト医療で使用されるクラリスロマイシン(14 員環)、アジスロマイシン(15 員環)
▲図3.アジスロマイシンによる緑膿菌のクオラムセンシング機構に対する抑制効果
A:アジスロマイシンのHSL抑制効果
B:アジスロマイシンのrhlAB遺伝子とエラスターゼの抑制効果
アジスロマイシンを緑膿菌の培養液に加えるとHSL量が低下し、クオラムセンシング機構に関連する遺伝子を抑制して、病原因子の一つであるエラスターゼの産生を抑制します。また、この時に外来性にautoinducerを添加すると、部分的に遺伝子とエラスターゼの発現が回復しており、アジスロマイシンの抑制効果が確認されています。このことは病原細菌が生残するものの、病原因子を発現できない新たな感染症治療薬の開発戦略を提供することになりました。つまり、これまで感染症治療薬といえば原因菌に対しての抗菌作用に注目してスクリーニングしてきたのですが、病原性の発現制御による新たな治療薬の可能性を示したことで注目されます。
マクロライド系抗菌薬(以下、ML薬)は、副作用が少ないこともあってよく使われていますが、耐性化が進んでいることや14員環系ML薬には他剤との相互作用が多いことから、安易な選択と漫然たる使用は好ましくありません。ML薬が第一選択となる場合(対象疾患、原因菌種など)をきちんと押さえておきましょう。また、他系統の抗菌薬が第一選択であっても、種々の条件でそれが使えないときに第二選択としてML薬が使える場合も押さえておきましょう。
上記マクロライド抗生物質はクラリスロマイシン、ロキシスロマイシン又はアジス ..
ML薬は、メチル側鎖を持つ巨大ラクトン環が糖とグルコシド結合した化学構造を持ち、ラクトン環内の炭素原子数によって14員環系、15員環系、16員環系に分けられます。β-ラクタム系薬(ペニシリン系薬、セフェム系薬、カルバペネム系薬など)とは異なって細菌の細胞質内によく侵入し、16SリボソームRNAの50S サブユニットに可逆性に結合して蛋白合成を阻害する静菌性の抗菌薬です。
[PDF] 論文題目 マクロライド系抗生物質の気道上皮細胞に及ぼす影響
びまん性汎細気管支炎(DPB:Diffuse Panbronchiolitis)に対し,14員環マクロライド系抗生物質(エリスロマイシン,クラリスロマイシン,ロキシスロマイシン)の少量長期投与が行われている(保険適応外使用)。通常は2~3ヶ月以内に臨床効果が認められ,最低6ヶ月投与して効果を判定する。自覚症状および臨床検査所見(画像,肺機能等)が改善し,症状が安定し,重症度分類で4級および5級程度になれば,通算2年間で終了する。終了後に症状が再燃したら,再投与する。また広汎な気管支拡張や呼吸不全を伴う進行症例で有効な場合は,通算2年間に限定せずに継続投与する。
スロマイシンなどの14員環マクロライド, およびアジスロマイシンの15員環マクロライドに.
1952年に実用化された最初のML薬である14員環系のエリスロマイシン(EM)は今も使われていますが、抗菌活性や消化管吸収性がやや低く、それを改善したものとして1960年代に16員環系薬が相次いで開発されました。さらに、EMの胃酸に対する不安定性や組織移行性の低さ、抗菌活性や抗菌スペクトラムが狭いなどの弱点を克服したのが1990年代以降のニューマクロライドと称されるML薬であって、14員環系のクラリスロマイシン(CAM)、15員環系のアジスロマイシン(AZM)などがあり、今日のML薬の主流となっています。
この化合物は、14員環ラクトン構造を持つ複雑な分子として知られて ..
ML薬が種々の生理活性を示すことは以前からよく知られています。広義のML薬には、抗真菌薬や免疫抑制薬が存在しますが、狭義のML薬にも種々の生理作用があります。消化管運動ホルモンのモチリンに類似した消化管運動機能亢進作用と共に、免疫炎症細胞(好中球、リンパ球、マクロファージ、肥満細胞 等)を介する抗炎症作用がよく知られています。後者の端緒は、1980年代に始まったびまん性汎細気管支炎(diffuse panbronchiolitis;DPB)の例に対するML薬の少量長期投与ですが、DPBの疾患概念は1969年に日本で確立しています。DPBは40~50歳代に多く発症し、呼吸細気管支に広範な炎症が起こって、持続性の咳、大量の痰、息切れ/呼吸困難を生じ、最終的には緑膿菌感染に移行して、5年生存率が50%前後だった指定難病です。通常の1/2~1/3の量のML薬を長期投与することによってこれらの症候は緩やかに軽減・改善し、現在の5年生存率は90%以上になっています。緑膿菌に無効なML薬であっても奏効するのはもちろんその抗菌作用によるものではありません。ML薬の持つ毒素産生抑制作用、エラスターゼ等の酵素産生抑制作用、細菌が産生するバイオフィルム産生の抑制作用、バイオフィルムの破壊作用、菌の細胞付着抑制作用によると考えられていますが、さらに最近では、細菌のQuorum-sensing機構(細菌が自己の存在密度を感知して病原性の発現を調節するメカニズム)を抑制する作用も知られるようになり、ML薬の多彩な生理活性には興味が尽きません。
EM及び同じ14員環マクロライドであるクラリスロマイシン (CAM)のみがIL-6及びIL-8の分
AZMは腎機能低下があっても調節は不要ですが、CAMは腎機能低下者では投与量の調節あるいは投与間隔の延長が必要です。消化管運動機能亢進作用による胃部不快感や下痢などは14員環系ML薬で高率に見られますが、15員環系や16員環系のML薬でもある程度見られます。ML薬の代謝排泄経路は主に肝・胆道系ですから、肝機能障害に注意が必要です。心電図上のQT間隔の延長も時に見られますから、十分な病歴聴取と併用薬剤のチェックが必要です。また、14員環系ML薬の代謝にはCYP3A4が関わりますから、この酵素で代謝される薬物との相互作用が生じ得ます。やはり併用薬剤の確認が必要です。