研究の名称:非 HIV 梅毒患者におけるアモキシシリン・プロベネシドによる治療効果検討
梅毒は, 代表的な性感染症(STI)の1つであり, 妊娠中および出産中に母親から児に感染する可能性がある。梅毒の母子感染は先天梅毒を引き起こし, 流産, 死産, 新生児死亡, 早産, 低出生体重, さまざまな先天異常および罹患率などの深刻な結果を引き起こす。世界保健機関(WHO)の推定では, 2016年には世界中で988,000人の活動的な梅毒の妊婦と611,000人の先天梅毒症例が報告されている1)。また, 梅毒は死産の感染原因の第2位を示している2)。
高用量経口アモキシシリン(3,000 mg/日)+プロベネシドは、HIV感染の非妊娠患者における梅毒を効果的に治療
注射用ベンザチンペニシリンG筋注(単回投与)は, WHOガイドライン3)および米国疾病管理予防センター(CDC)ガイドライン4)で推奨されている先天梅毒の予防のための母体梅毒治療の唯一のレジメンであり, 現時点で代替レジメンを推奨するのに十分な証拠はない。母体梅毒の代替治療に関する系統的レビューでは, 注射用ベンザチンペニシリンG筋注以外のレジメンで治療された21人の梅毒妊婦が特定されている5)。エリスロマイシンとアジスロマイシンは胎盤関門を通過しないため, 胎児の治療はできない5)。さらに, Treponema pallidumに対するマクロライド耐性が多くの国から報告されている6)。薬理学的にも添付文書上もテトラサイクリンとドキシサイクリンは妊娠第2期と第3期では禁忌である。また, 母体梅毒の治療と先天梅毒の予防目的でセフトリアキソンを推奨するにはデータが不十分である4,7)。日本では, 2020年1月現在, 注射用ベンザチンペニシリンGが使用できないことから, アモキシシリンやアンピシリンなどの経口ペニシリン薬が妊婦梅毒の治療に用いられてきた。妊婦梅毒治療と先天梅毒予防においてこれらのレジメンの有効性は報告されていないが, 高用量アモキシシリン(6g/日)とプロベネシド(1g/日), 14日間投与で治療に成功した妊婦の報告は存在する8)。アモキシシリンやアンピシリンによる治療レジメンは, 日本性感染症学会の「性感染症 診断・治療ガイドライン2016」9), 「日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会の産婦人科診療ガイドライン-婦人科外来編2017-」10)にも記載されている。これらのガイドラインでは, 梅毒治療は, 経口アモキシシリンまたはアンピシリン1,500mg(1日3回500mgの投与)連日投与を第一選択とし, 第1期は2~4週間, 第2期では4~8週間, 第3期以降では8~12週間を必要とすると記載されている。また, 無症候梅毒では, カルジオリピンを抗原とする検査で抗体価が16倍以上を示す症例は治療することが望ましいと記載がある。投与期間は, 感染時期を推定し, その期の梅毒に準じるが感染後1年以上経過している場合や, 感染時期の不明な場合には, 8~12週間とすることも記載されている9,10)。
日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会の「産婦人科診療ガイドライン-産科外来編2017-」11)には, ①妊娠初期に病原菌であるT. pallidumと交叉抗原性を有する脂質, カルジオリピンを抗原とする非特異的検査(STS: serological test for syphilis)と, T. pallidumそのものを抗原とする特異的検査(TPHA法, FTA-ABS法のうち1法)を組み合わせてスクリーニングを行う, ②妊婦で感染があったと判断された症例では, 病期分類を行い, 治療不要と考えられる陳旧性梅毒と明らかに診断される例や治療歴がありSTS法抗体価8倍以下かつ特異的検査法陽性例以外は速やかにペニシリンを中心とした抗菌薬投与を行う, ③抗菌薬治療を行った妊婦では妊娠28~32週と分娩時にSTS法を行い, 治療効果を判定する, ④抗菌薬治療を行った妊婦では妊娠中期に超音波検査を行い, 胎児肝腫大, 胎児腹水, 胎児水腫, 胎盤の肥厚の有無を確認することが示されている。
⾼く保つ作⽤のあるプロベネシドとアモキシシリンを併⽤することにより梅毒を治療してきた
Q
手足の皮疹で,他の疾患に比べて梅毒に特徴的な所見はないのでしょうか。
A
皮疹は全身のあらゆる場所に出現しますが,50〜80 %の症例で手掌と足底にも出現する(2)とされ,手掌・足底を含む皮疹は梅毒を疑う手がかりになります。しかし特異的なものはないため,新規発症の全身性の丘疹や扁平な皮疹では,二期梅毒を鑑別に挙げる,というのがメッセージです。
西島, 川名らは, 経口アモキシシリンまたはアンピシリンによる妊婦梅毒の治療に関して全国的な多施設後ろ向き研究を実施し, 活動性妊婦梅毒80人のうち, 21%が先天梅毒をきたしたことを報告している12)。妊婦梅毒早期26例では, 先天梅毒症例率は0%で, 妊婦梅毒後期45例では, 先天梅毒症例率は33%であった。少なくとも出産の60日前に治療を開始した57人の妊婦梅毒患者のうち, 先天梅毒発生率は14%であった。この研究により, 経口アモキシシリンまたはアンピシリンは, 妊婦梅毒後期では先天梅毒発生を予防するのに効果的ではなかったが, 妊婦梅毒早期では先天梅毒発生をある程度予防できた可能性があることが明らかになった。これらのことから, 先天梅毒予防のために, 日本でも注射用ベンザチンペニシリンG筋注(単回)の早期の臨床再導入が強く望まれる。
2023年1月21日更新:梅毒治療におけるステロイド, 妊婦梅毒 ..
Q
1期梅毒で治療期間は14日とありますが,RPRが1/4〜8倍以下になるまで投薬を続けるという意味ですか?
A
14日間で投薬を終了してRPR(もしくはVDRL)をフォローアップするという意味です。正しく治療が行われた場合でも,ゆっくり下がるので、次の週に測定する必要はありません(正常化するまでの期間は感染からの期間に比例し,大まかに1期で1年,2期で2年と理解すると良いと思います)。早期は6ヶ月と12ヶ月,晩期は6ヶ月,12ヶ月,24ヶ月にRPRを測定します。1/4以下になれば,治療成功と判断します。
Q
梅毒の治療で,プロベネシドを使用するのは,なぜですか?
A
プロベネシドは高尿酸血症の治療薬で,尿酸排泄促進薬ですが,近位尿細管でペニシリンの排泄と拮抗するため,血中濃度を維持することを期待して使用します。ベンザチンペニシリンG筋注が使用できない本邦での苦肉の策として使用されています。2015年に国立国際医療研究センターの大規模研究(3)をみると,ある程度有効性は確立していると考えて良さそうです。2018年,都立駒込病院からプロベネシドを用いないアモキシシリン 500mg 1日3回内服での治療(4)に関する報告がありました。治療成功率は全患者で95.2 %,HIV陽性患者で95.7 %,HIV陰性患者で93.8 %,早期梅毒患者で 97.8%,後期梅毒患者で 88.2%と,HIV感染の有無,病期によらず良好な成績でした。また,2013年には IDATENが厚労省に「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬」としてベンザチンペニシリンG筋注製剤の承認を要望し,現在メーカーに開発を要請している段階で,近い将来梅毒の国際標準治療薬が使用できるようになる可能性があります。
1期、2期の梅毒患者に対してAMPC1g/回とプロベネシド250mg/回を1日3回、2週間継続服用させた場合の治療成功率が高かった。
Q
早期梅毒と後期梅毒を,1年で分ける臨床的意義はありますか?
A
区切ることの臨床的意義は,後期梅毒ではより長期の治療期間が必要になるためです。1年で区切る理由は,感染皮膚粘膜の梅毒病変の接触を介した感染が, 1年以降ではほとんど起こらなくなるため(5)です。
●成人における梅毒治療の第一選択薬はペニシリン系抗菌薬であり,アモキシシリン水和物内服またはベンジルペニシリンベンザチン水和物筋注が中心である.
国内における梅毒治療法と感染拡大の防止策 【AMPC+プロベネシドが高い奏効率を記録。最良の拡大防止策は早期診断と早期治療】
現在わが国では世界の標準である持続型ペニシリンの筋注が行えないためペニシリン内服療法が一般的に行われているが、その実態は明らかではなく、有効性の検証も十分なデータがない。そこで、日本性感染症学会員を対象にアンケートによる梅毒治療の実態調査を行った。その結果、91.5%で日本性感染症学会ガイドライン2016に従った治療、すなわち第1期ではバイシリンG:1日120万単位/分3またはアモキシシリン1日1,500 mg/分3 2~4週間内服投与、第2期ではバイシリンG:1日120万単位/分3またはアモキシシリン1日1,500 mg/分3 4~8週間内服投与が行われていた。これを逸脱した治療で多かったのはプロベネシド併用およびアモキシシリン3,000 mg/分3であった。80.8%が治療失敗の経験はないと回答し、治療失敗の経験があるとした回答者にその理由を尋ねたところその理由で最も多かったのは患者がきちんと内服しなかったことであった。内服療法には服薬アドヒアランスの問題があるため、88.7%が筋注療法の導入を希望した。
3.診断は梅毒抗体検査(梅毒トレポネーマ抗体と RPR)が決め手です。 ..
Q
入院時のスクリーニングとして,RPR, HBs抗原,HCV抗体,HIVをチェックすべきでしょうか?
A
入院時のこうした検査は,STIのスクリーニングというよりは医療従事者を血液・体液暴露から守ることが目的である場合が多いと思います。基本的にはすべて標準予防策で予防可能であり,感染予防策としてはチェックする必要はありません。梅毒については顕性梅毒患者を暴露源とする針刺し事故での感染の報告(9)はありますが,極めてまれな事象で,ルーチンチェックは不要です。
リンの内服でも治療可能で、1 回 500 mg を 1 日 3 回とガイドラインには記載してありま
Q
生物学的偽陽性のマネジメントをもう少し詳しく教えてください。
A
生物学的偽陽性とは,RPR陽性,TPHA陰性の状態を指します。RPRはrapid plasma reaginの略で,ウシ心臓から抽出されたリン脂質とT. pallidumによってダメージを受けた細胞が放出する物質の抗原の共通性を利用した生体内での交差反応を見ているため,梅毒以外の原因でも上昇することがあります。妊娠中や,心内膜炎・リケッチア感染症などの急性熱性疾患,伝染性単核球症,あるいは最近の予防接種などでも一過性に偽陽性となることがあります。3ヶ月から半年後に再検することで偽陽性かどうかを判断します。RPR単独陽性の中には梅毒の超急性期が隠れていることがありますので,生物学的偽陽性と判断する前にしっかりsexual historyを聴取し,身体所見を詳細にとることが重要です。疑わしい場合にはRPRより早期に陽性化するFTA-ABSを追加するか,1〜2ヶ月後に検査を繰り返すことが大切です。
そこで、日本性感染症学会員を対象にアンケートによる梅毒治療の実態調査を行った。 ..
Q
STIでHAV, HBV, HIV,梅毒,淋菌,クラミジアで1つ見つけたら,具体的に問診・検査はどこまで行えば良いでしょうか。
A
問診は5Psに沿って行えばよいと思います。「1つ見つけたら全部調べる」というのがSTI治療の大原則です。
検査は,HBs抗原, HCV抗体,クラミジア・淋菌(尿核酸増幅法)、HIV,RPR定量,TPHA定量を提出します。
腸内細菌叢を変化させ、経口避妊薬の腸肝循環による再吸収を抑制すると考えられている。 プロベネシド ..
日本語
アモキシシリンとプロベネシド併用療法に対するアモキシシリン低容量単剤療法の有効性と安全性を比較する
性感染症 Sexually Transmitted Infection
日本語
アモキシシリン 1回 500 mg 経口投与 1日3回
14日間 早期梅毒(1期、2期、早期潜伏)
28日間 後期梅毒(晩期潜伏梅毒、感染期間不明)
benzathine が本邦で採用された場合には、神経梅毒を除いた、第 1 期、第 2 期、
日本語
アモキシシリン 1回 1000 mg 経口投与 1日3回
プロベネシド 1回 250 mg 経口投与 1日3回
14日間 早期梅毒(1期、2期、早期潜伏梅毒)
28日間 後期梅毒(晩期潜伏梅毒、感染時期不明梅毒)
医療用医薬品 : サワシリン (サワシリンカプセル125 他)
日本語
1) HIV感染者
2) ①または②を満たすもの
① RPR(Rapid plasma regain)が8以上かつTPHA(Treponema. Pallidum hemagglutination)検査が陽性の者。尚、RPRが8の時は梅毒に一致する皮疹(硬性下疳、梅毒性ばら疹、丘疹性梅毒など)を認める場合のみとする。
②RPRが前値から4倍以上の増加かつTPHA検査陽性
アモキシシリンの効果は?使用上の注意や飲み合わせについても解説
日本語
1) 妊娠中または授乳中の者
2) アモキシシリンまたはプロベネシドに過敏症の既往がある者
3) 髄液所見から神経梅毒または眼梅毒や内耳梅毒と診断されたもの
4) 並存疾患により梅毒に有効な抗菌薬治療が必要
5) 先行する3週間以内に梅毒に有効な抗菌薬が投与されている者
9.8.2. ビタミンK欠乏による出血傾向があらわれることがある〔9.1.3参照〕。 ..
日本語
合計112人の参加者が2群に無作為に割り付けられた。12ヵ月以内の血清学的治癒率は、低用量アモキシシリン療法で90.6%、併用療法で94.4%であった。
94.4%であった。早期梅毒の12ヵ月以内の血清学的治癒率は12ヵ月以内の血清学的治癒率は、低用量アモキシシリンと併用レジメンでそれぞれ93.5%と97.9%であった。低用量アモキシシリンの非劣性
低用量アモキシシリンとアモキシシリン+プロベネシドとの比較では、全体および早期梅毒に対する非劣性は確認されなかった。有意な副作用は認められなかった。
有意な副作用は検出されなかった。
内服薬の第一選択として治療に用いられるのが、合成ペニシリン製剤の「サワシリン(アモキシシリン)」です。 ..
日本語
研究参加者のベースライン特性は、各群間でバランスがとれていた。梅毒の病期については、早期梅毒の参加者の割合は86.6%であったのに対し、後期梅毒の参加者の割合は13.4%であった。診断時の手動RPR価の中央値は64(IQR:32-128)であったのに対し、自動RPR価の中央値は151.9(IQR58.8-345). HIV感染状況については、HIV感染者の91.1%が抗レトロウイルス療法を受けていた。CD4数の中央値は525/μLであり、PWHの94.6%はウイルスが抑制されていた。