[PDF] 表皮細胞の遺伝子発現を調節することで日焼けへの影響を緩和
視神経交叉の上部に位置する視交叉上核は背内側部(シェル)と腹外側部(コア)とに分かれ、動物の持つ自発的なサーカディアンリズムは視交叉上核背内側部(シェル)の中に蓄えられています。一方で視交叉上核腹外側部(コア)には日中と夜間の明暗サイクルに伴ってグルタミン酸系の刺激が入力しています。ヒトの場合には朝の明るい日差しが網膜に入射することで視交叉上核の腹外側部が興奮し、背内側部のサーカディアンリズムを再起動(リセット)することが知られています。睡眠周期と松果体ホルモン=メラトニンおよび体温とコルチゾールの日内変動との関係についてラットの脳で総括したのが次の図版です。
① 「体内時計調節ホルモン」と言われるメラトニン※1 が増えると、遺伝子の発現を調節するタンパク質で
ヒトにおいては内因性時計は視交叉上核背内側部(シェル)の中にあるVP(一般には抗利尿ホルモンとして知られていますが、ここでは神経伝達物質をしてのバゾプレッシンを指します)作動性神経の24~25時間周期の自発的な活動増加-減少パターンによって引き起こされることが知られています。すなわち日中には視交叉上核シェル内のVP 作動神経の活発な活動が脳から全身に伝えられてヒトは覚醒状態になって活動し、夜間は逆にVP 作動性神経系の働きが低下することで活動が抑制されて睡眠へのスイッチング機構が働くのです。シェルの自発的な活動パターンは光刺激を受けるとコアに存在するVIP 作動性神経系の働きがセロトニン神経系の活動増加と協調して高まることで刺激入力を受け、毎日修正されてほぼ正確に24時間周期に睡眠と覚醒が繰り返されるようにリセットされるのです。ここで自発的と言ってしまいましたが、なぜこのような規則的な変動が毎日同じように繰り返されるのかが、近年は遺伝子の発現制御に関する研究から分子レベルでの解明が続けられています。このサーカディアンリズムの発生に遺伝子が関与する分子生化学的なメカニズムは山元大輔先生が著書の『心と遺伝子』第5章でハエと実験哺乳動物の研究成果を集大成して分かり易く解説しておられます。
哺乳動物で視交叉上核の異変が起こるとサーカディアンリズムが短くなったり長くなったりすることは、1988年にタウと名付けられた自由継続リズムが約20時間のハムスターの研究から明らかにされました。タウの遺伝子を2対持つハムスターは自発周期が約20時間、タウの遺伝子を1対だけ持つハムスターの自発周期は約22時間になっていましたので、遺伝子変異がサーカディアンリズムを変化させることが明らかになったのです。その後1994年になって自由継続リズムの周期が28時間という突然変異体が系統化されクロックと名付けられました。これらの突然変異体の遺伝子を詳しく調べて、それまでにわかっていたキイロショウジョウバエでのサーカディアンリズム発生遺伝子である「ピリオド」との類似性から哺乳類ではピリオド1、ピリオド2、ピリオド3の3種類のピリオドタンパク質を作る遺伝子が視交叉上核内で働いていることがわかりました。生体時計を刻む本来の役割はピリオド2にあり、ピリオド1は光の刺激を受けると直ぐにタンパク質を作る転写を起こして光同期性を発すること、さらにクリプトクロームという光に敏感なタンパク質がピリオドタンパク質と複合体を作って、核内にそれを移動させる働きから日周リズムを調節しているらしいこともわかってきています。いまやサーカディアンリズムは種を越えてハエと人類でも共通の基盤から進化した脳の働きであり、しかもクリプトクロームは植物で青色光の受容体蛋白として見つかったもので、それが哺乳類では光によって駆動される体内時計の一部品となっていたということは、植物と動物の壁さえ越えて生体内時計が進化してきたことを連想させます。
2017年12月8日発表/エスティ ローダー研究所は、肌の時計遺伝子の同期についての10年に及ぶ
このように私たちヒトには長い進化の歴史を背負って働くサーカディアンリズム発生装置が備わっていて、基本的に昼行性にセットされています。それを現代社会では電気という第二の光で昼行性のヒトを夜行性に変える現代的ライフスタイルが拡張していますが、遺伝子の設定を急激に変えることは難しいので、夜行性のヒトではコルチゾールの日内変動が影響を受けていつもストレス漬け同様にコルチゾールが出続ける弊害が起こる可能性が憂慮されます。睡眠中に分泌されるメラトニンは良い睡眠状態を作り出すホルモンで、セロトニンから脳の松果体で生成されるホルモンですが、生体内で睡眠中に身体の錆とも呼ばれる活性酸素を分解したり、抗ウイルス作用を増強するなど生体防御と老化防止に重要な役割のあるホルモンです。またメラトニンは肌を白くしたり性ホルモンの調節にも関与しているので、夜間に睡眠が不足すると体内の活性酸素が分解されず細胞がダメージを受け、風邪などが治りにくく、肌も浅黒くなり生理不順が起こったりします。光不足の夜行性の生活習慣ではセロトニンの分泌も減少しやすく、セロトニン不足による抑鬱状態も出る危険性が推察できます。このような状況を三池輝久先生は「小児慢性疲労症候群」と規定して不登校児童の治療に応用しておられます。三池先生は夜行性になっている不登校児童の睡眠周期を昼行性に修正する治療法として高照度光療法を提唱しておられますが、全部とは言えなくても一部の不登校児童には高照度の光でセロトニン神経を活性化して夜間はよく眠らせるように誘導することは有効な方法なのかも知れません。
また子どもの睡眠不足につきましては社団法人日本小児保健協会でも「睡眠覚醒のリズムとその他の生体リズムに解離が生じると、昼間の眠気、夜間の不眠、抑うつ等、様々な心身の不調をきたしうることなどが判明してきた。また、不登校の子どもの多くに睡眠覚醒リズムの障害が認められるとの報告もある」との問題提起がなされており、下記のサイトで見ることが出来ます。
メラトニン分泌の変化は注意欠如多動症(ADHD)症状と関連する
「早寝・早起き・朝ご飯」が子どものライフスタイルとして理想的のみならず脳の機能的にも重要な要素であることを神山潤先生が「昼のセロトニン,夜のメラトニンを高めるための8か条」として「すべての生活習慣病、すべてのキレる子どもたちの問題を夜ふかしだけで説明しようと思えば説明できます。ただ私自身はすべての生活習慣病、すべてのキレる子の問題を夜更かしだけで説明しようとは思っていません。環境ホルモンとか電磁波とか紫外線とか色々なものが複雑に絡んでいると思います。ただ最近の風潮で「生活習慣病だ。すぐに医者に行け。キレる子だ。ほら臨床心理士だ」ということはいかがなものかと思います。もっと基本的な生活習慣をきちんとすることで、まだまだ予防可能なことはたくさんあることを是非多くの方に知っていただきたいと思うのです。」との提言と共に下記のサイトに掲示しておられますので、是非ご参照下さい。
本稿の作成には『脳内物質のシステム神経生理学』(有田秀穂著 中外医学社刊 2006年) 『精神の脳科学』(加藤忠史編 東京大学出版会刊 2008年)および『心と遺伝子』(山元大輔著 中公新書ラクレ刊 2006年)から文章と図版を引用させていただきました。転載に快諾をいただけた著者と出版社、またサイトからの引用にご承諾を頂けた神山潤先生に感謝と敬意を表します。
サーカリスは、体内時計調整を調整し、オートファジーを改善。メラトニン ..
私たちの脳や体には、「体内時計」と呼ばれる1日のリズムを作り出す「時計遺伝子」があります。この時計遺伝子が、私たちの体を地球の時間に合わせて、調整してくれます。
この時計遺伝子は、あらゆるところに組み込まれていて、メインとなるのが、脳の「視交叉上核【しこうさじょうかく】」にある「主時計」です。みなさんの両耳を繋いだ中間あたりに位置しています。この主時計以外に、胃、腸、肝臓などの内臓や、血管や皮膚などの末梢組織にも「副時計」と呼ばれる体内時計が備わっています。これら体全体に備わっている副時計を調整するのが、脳の主時計です。
ここで最初に問題になるのが、これらの時計は、地球が刻む1日の長さである「24時間にセットされていない」ということです。主時計が刻む「1日」の長さは人によってばらつきはあるものの、24時間よりも少し長い1日を刻みます。そのため、外の光の刺激がない洞窟に住むとすると、地球の1日と、自分の体が刻む1日が、毎日約30分ずつずれていきます。24日後には、昼夜逆転という事態になってしまうのです。
毎朝、同じ時間に同じ行動をして全身の細胞の時計遺伝子に刺激を与えると、体内時計が調整しやすくなる。 ..
哺乳類の内因性時計が脳の視床下部の前方にある視交叉上核の中にあることは、ラットの脳で手術的に視交叉上核を周囲から切離し孤島化させて電極を埋め込むという手の込んだ実験から確かめられました。この実験では周囲から切り離されたラットの視交叉上核が約24時間の周期で興奮の増強と沈静化を繰り返すことが確認され、視交叉上核を切り離されたラット個体は生活が規則性を失うことが観察されました。このように哺乳類やヒトにはサーカディアンリズムを自発的に発生する生体時計があり、遺伝的個人差を含んで平均的に約24時間の昼行性の生活リズムが脳の視交叉上核に記憶されています。この設定は網膜が朝の光を感じるたびにリセットされて、視交叉上核の活動上昇に応じて体温が上昇すると共に、コルチゾールが上昇し、血中のアミノ酸増加と肝臓からの糖新生を促進して血糖値を上昇させ、腎臓からの水分再吸収を促進して血圧も上昇させます。このようなサーカディアンリズムは我々ヒトでは現在は生理的には昼行性にセットされており、その生体調節は次のような視交叉上核を中心とする神経的な調節メカニズムで行われています。
時計遺伝子の働きを「体内時計」と呼びます。体内時計は、睡眠、体温、血圧 ..
自分の体にある体内時計のずれを、地球の時間に毎日合わせる必要があるのですが、この調整には、「光の刺激」と「食事の刺激」の二つが大きく関係しています。
時計遺伝子の発現をリセットさせる。このようにして睡眠覚醒などの概日リズムは明暗環境に同調できる。松果体の
「光の刺激」は、目の網膜に光が入ると、情報が視交叉上核に伝わり、更に松果体に伝わります。内分泌器官の松果体は、メラトニンというホルモンを、暗い光だと多く分泌し、明るい光だと少なく分泌して、血中のメラトニン濃度を調整することで、内臓、血管、皮膚などの全身に「朝だ」「夜だ」という指令を出します。朝、強く明るい光が網膜に入ると、視交叉上核が「朝になった」と認識し、松果体からのメラトニン分泌を抑えて、全身の組織に対して、「各自の体内時計をリセットせよ」と指令を出しているのです。
体内時計とは時計遺伝子が概日リズムを刻む仕組みであると先に述べましたが、実は ..
「食事の刺激」は、食事をすることによって、胃、肝臓、膵臓、皮膚、血管などすべての細胞に対し、「体内時計をリセットして下さい」という指令が直接各器官に伝わるようなイメージです。
[PDF] 体内時計機構におけるcholecystokinin-1受容体の関 与
また、夕食を食べて朝食を摂るまでの間に絶食していることになりますが、この夕食から朝食までの長い絶食時間が体内時計のリセット効果に大きく影響します。ただ、絶食時間を十分にとれていない人の方が多いでしょう。絶食時間を10時間ほど設けることができれば、食事がもたらす体内時計のリセット効果が高まるとされています。2017年に出されたヒト研究の報告によると、明暗環境を変えずに食事時間だけをずらすと、体内時計のリズムが変わることが示されています。つまり、光よりも食事の刺激のほうが勝ってしまう場合があるということです。報告されているのは、血糖値、インスリン、末梢臓器の体内時計です。
また、Ca2+結合タンパク質の一つである Calbindin(CalB)は、主 SCN 内にも存在しており、欠損によ
光と食事の二つの刺激の相乗効果によって、体内時計は調整されますが、夜勤やどうしても深夜まで起きていなければならない事情がある場合は、せめて食事だけでも体内時計を乱さないような習慣づけをしておく必要があるでしょう。
スクや常用性[209-213]がある点, メラトニンアゴニストは様々な概日時計以
2017 年のノーベル生理学・医学賞で話題の「体内時計」は、睡眠障害や肥満など、私たちの健康に大きく関わっていると言われています。この体内時計の調整に、重要な役割を果たしているのが食事です。内容や量に加え、摂取する時間を研究する「時間栄養学」の第一人者、理工学術院の柴田重信教授に、早大生が摂(と)るべき食事について伺いました。時間栄養学に沿った適切な朝食・夕食を摂れば、昼食(13:00ごろまで)は好きなものを食べても良いとか…。その理由を体内時計のメカニズムから解き明かします。
誰もがもっている24時間の体内リズム.ハエ・マウス・植物にも共通するそのメカニズムとは? いま時計遺伝子がおもしろい!
柴田重信(しばた・しげのぶ)早稲田大学理工学術院教授。先端生命医科学センター長。九州大学薬学部卒業、同大学院薬学研究科博士課程単位取得退学。薬学博士。専門は時間健康科学。時間栄養学の第一人者で、著書に『時間栄養学』(女子栄養大学出版部)、『食べる時間を変えれば健康になる』(監修/ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『体内時計健康法』(共著/杏林書院)など。
[PDF] 1 交替勤務者の睡眠障害要因(時計遺伝子多型)の研究
「体内時計」とは、体内の時間軸を調整するシステムです。私たちの体の中には時間のリズムを刻むメカニズムがあり、1日単位で調整しています。この体内時計を形づくっているのが数多くの「時計遺伝子」です。1997年に哺乳動物の「時計遺伝子クロック(Clock)」が発見され、体内時計は脳だけでなく、末梢(まっしょう)臓器全てで機能していることが判明しました。脳の「視交叉上核(しこうさじょうかく)」と呼ばれる部分に主(親)時計があり、同時に内臓や血液などの末梢組織には、それぞれ個別に動く副(子)時計が機能しています。主時計が”世界標準時”とすると、おびただしい数の”ローカル時間”(副時計)が体中にあることになります。この体内時計の針が狂うと、睡眠障害、うつ病、肥満、糖尿病などの代謝障害や、免疫・アレルギー疾患、さらにがんの発症にもつながることが分かってきました。
時計遺伝子は視交叉上核のみならず、多くの末梢組織にも発現しており、
私たちの体内時計は、1日24.5時間の周期で動いています。これを1日24時間の周期に合わせるために、光と食事の刺激で体内時計を日々リセットしています。脳にある主時計は、目(網膜)を通して入ってきた朝の光を受けて「朝になった」と認識すると、リセットされて時計が進み始めます。それに対し臓器などにある副時計は、明暗に関係なく朝食によって動き出すことが分かってきました。
メラトニン、コルチゾールのみならず時計遺伝子 hPer1、hPer2
今回はヒトおよび哺乳類の脳の生理的な日周リズムに関係する神経伝達物質としても解説したヒスタミンとオレキシンのスイッチング起動物質以外に、セロトニンとVIP(副交感神経関連の神経ペプチドの一種)およびコルチゾールや松果体ホルモンであるメラトニン等の日周リズムと遺伝子との関係について『脳内物質のシステム神経生理学』(有田秀穂著 中外医学社刊 2006年) 『精神の脳科学』(加藤忠史編 東京大学出版会刊 2008年)および『心と遺伝子』(山元大輔著 中公新書ラクレ刊 2006年)を参考図書として解説し、子どもの睡眠時間の短縮に対する警告、不登校児によく現れる抑うつ症状と睡眠覚醒リズムの乱れと、さらには昼夜逆転現象に対する高照度光治療等の関連事項についても言及しようと思います。
という時計遺伝子があるところで、朝の光を認識することによって生体時計の調節が ..
例えば、朝7時に起きて夜22時過ぎに明かりを消して眠るという同じ条件下で、食事の時間を変えてみます。7時、12時、17時に摂る場合と、後ろへ5時間ずらして12時、17時、22時に食事を摂る場合の実験データでは、前者は主時計と副時計は同じリズムで1日を刻みますが、後者の場合は主時計は起床時から動き始めるのに対し、副時計は後ろに数時間ずれて活動リズムを刻みます。これは、臓器などの末梢組織がバラバラに動き、体の中で時差ぼけが起きている状態です。オーケストラで例えるなら、主時計の指揮者は正確なリズムでタクトを振っているのに、副時計の奏者が勝手に演奏して全体のハーモニーを保っていない状況です。こうして体内時計が不調になると、体調不良や病気を招くことになるのです。体内時計をきちんとリセットさせるためには「いつ食べるか」が重要で、このことを研究するのが「時間栄養学」です。