「老齢マウスを使って加齢にともなう記憶力低下の原因を解明」 -メラトニンの脳内代謝産物AMKに記憶力低下の改善薬として期待-
松果体内や血液中のメラトニン量を測定したところ、メラトニンを合成できるコンジェニックマウスでは、夜間に多くのメラトニンが合成・分泌されていることを確認しました。また、メラトニンはメラトニン受容体に作用して機能を発揮することから、脳内におけるメラトニン受容体の発現量や分布を調べたところ、メラトニンを合成できるコンジェニックマウスとできないコンジェニックマウスで違いは見られませんでした。
松果体で合成される睡眠ホルモンメラトニンを産生する CBA/N マウスは
次に、両方のコンジェニックマウスについて、さまざまな光条件下における活動のリズム(概日リズム[6]など)、寿命、体重、生殖腺の重さや繁殖効率、情動や社会性に関する行動を調べました。その結果、予想に反して、概日リズムに対するメラトニンの効果は顕著ではありませんでした。一方で、6時間の時差ぼけ[7]を人工的に与えると、メラトニンを合成できるコンジェニックマウスの方がより早く時差ぼけを解消することが分かりました(図1)。
国際共同研究グループはまず、メラトニンを合成できるMSM/Msマウス[4]に注目しました。MSM/Msマウスは40年ほど前に作られたマウス系統で、現在も野生マウスが持つさまざまな特性を保持しています。このMSM/Msマウスを、メラトニンを合成できない一般的な実験用マウス系統のC57BL/6Jマウスと交配させ、生まれたマウスを再びC57BL/6Jマウスと交配させました。これを10回以上繰り返し、最終的にメラトニンを合成できるコンジェニックマウス[5]系統と合成できないコンジェニックマウス系統を樹立しました。
マウスにおける松果体メラトニン合成の制御機構に関する遺伝学的及び生理学的研究
(c)時差ぼけが解消するまでの日数を示したグラフ。メラトニンを合成できるコンジェニックマウスの方が早く時差ぼけを解消できた。
2010年の成果を手掛かりに、今回、国際共同研究グループはメラトニンを合成できる実験用マウスを開発し、メラトニンを合成できない実験用マウスと比較することでメラトニンの機能を調べました。
老齢マウスの脳内メラトニンについて | 日本大学薬学部研究紀要
これまでメラトニンによる寿命延長効果がしばしば語られてきましたが、本研究で用いたコンジェニックマウスでは寿命延長は確認されませんでした。また、メラトニンを合成できないコンジェニックマウスは合成できるコンジェニックマウスよりも早く成長し、繁殖効率も優れることが判明しました(図2)。一方で、情動や社会性に関する行動については大きな違いはありませんでした。
(a)オス、メスともにメラトニンを合成できないコンジェニックマウスの体重は早く増え、早く成長することが分かった。
メラトニンを合成できる実験用マウスを開発し、哺乳類においてメラトニンが時差ぼけの解消や日内休眠に関わることを明らかにした。
一方で、メラトニンをヒトやマウスに投与したときの効果については、数多くの研究報告があります。メラトニン剤は日本では2020年に承認され、「小児期の神経発達症に伴う入眠困難」への保険適用になっています。また、アメリカなどでは数多くのメラトニン入りのサプリメントがドラッグストアなどで販売されています。
(b)コンジェニックマウスの繁殖率。メラトニンを合成できないコンジェニックマウスの方が高効率で妊娠し、仔の数も統計学的に有意に多かった。
メラトニンはマウス顆粒膜細胞の核、ミトコンドリア、細胞膜を酸化ストレス傷害から護る
これらの結果から、メラトニンを合成できなくなることは飼育舎内のマウスにとっては有利だったと考えられます。しかし、野生のマウスはメラトニンを合成できます。では、野生マウスにとってのメラトニンの重要性とは何でしょうか。
メラトニンによるポストコンディショニングは、マウス神経細胞においてメラ
今回、国際共同研究グループは、メラトニンを合成できる実験用マウス系統を開発し、メラトニンの生理学的機能を精査しました。その結果、これまでに推定されていた睡眠覚醒リズムや繁殖効率への効果を確認した一方、寿命延長効果は認められませんでした。また、メラトニンが飢餓状況における消費エネルギーの節約に関わっていることを発見しました。
「老齢マウスを使って加齢にともなう記憶力低下の原因を解明」-メラトニンの脳内代謝産物AMKに記憶力低下の改善薬として期待-
マウスには光周性はありませんが、繁殖には季節性があることや、メラトニン剤を投与した際には体温低下効果が見られることなどから、コンジェニックマウスを野外で経験すると考えられる食料不足の状態に置いてみました。すると、メラトニンを合成できるコンジェニックマウスは、冬眠に似た深くて長い低体温を示す日内休眠の状態になりましたが、メラトニンを合成できないコンジェニックマウスは浅くて短い休眠状態しか見られず、その結果、1週間の制限給餌後に体重が大きく減少してしまうことが分かりました(図3)。
【成果】 妊娠期および非妊娠期のC3H/He マウス単離膵島において、メラトニン受容体 MTi 及び MT2
メラトニンは夜間に脳内で分泌されるホルモンで、体内時計[2]や光周性[3]などの調節に関わると考えられています。しかし、実験用マウスは長い間飼育環境に置かれ続けたためにメラトニンを合成できなくなっていることから、メラトニンの機能はよく分かっていませんでした。
その結果、メラトニンを飲んだマウスは飲まなかったマウスに比べて
(a)制限給餌中および前後における深部体温の変化の代表例。暗期(各12時間)を灰色の背景で示した。 メラトニンを合成できるコンジェニックマウスは日内休眠状態が見られた(下)、合成できないコンジェニックマウスでは浅くて短い休眠状態しか見られなかった(上)。
実験的にマウスにメラトニンを300mgで二年間投与しても、問題となる変化がなかったと報告しています。 がんに対するメラトニンの基礎研究
(b)1週間の制限給餌の前後の体重変化。メラトニンを合成できるコンジェニックマウスの方が、体重減少が有意に少なかった。
モデルマウスのSCGにおけるマクロファージの除去により、松果体支配神経の除神経は阻止され、生理的メラトニン分泌が回復した。 評価
本研究成果は、メラトニンの機能の解明につながるとともに、今回開発した本来の姿により近い実験用マウスを用いた研究が今後広まると期待できます。
東京医科歯科大学は、メラトニンの代謝産物であるAMKがマウスの長期記憶形成を促進することを突き止めたと発表した。
本研究成果には三つの意義があります。一つ目は、メラトニンを合成できる実験用マウス系統を開発し、哺乳類におけるメラトニンの生理学的機能を精査したことです。その結果、過去に推定されていた機能について確認や否定をしただけでなく、日内休眠の制御というこれまで知られていなかった機能を明らかにしました。メラトニン剤には免疫系や骨の形成にも影響を与えることが知られており、今後はこれらについての解明も進むと考えられます。
[PDF] 122. 松果体メラトニンによる網膜の光感受性抑制機構の解明 池上 啓介
理化学研究所(理研)脳神経科学研究センターキャリア形成推進プログラムの笠原和起上級研究員、バイオリソース研究センターマウス表現型解析開発チームの古瀬民生開発研究員、三浦郁生開発技師、ニューヨーク州立大学バッファロー校医学・生物医科学部のマーガリータ・ドゥボコビッチ教授、順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学/医学部精神医学講座の加藤忠史主任教授らの国際共同研究グループは、メラトニンを合成できる実験用マウスを開発し、哺乳類においてメラトニンが時差ぼけの解消や日内休眠[1]に関わることを明らかにしました。
[PDF] メラトニンの代謝産物 AMKが長期記憶を促進する
二つ目に、人類がマウスを家畜化(愛玩化)してきた歴史とマウスの進化(変化)に、メラトニンが大きく関わってきたことを明らかにしました。異なる環境がメラトニン合成能に与える正と負の自然選択[8]圧は、生物の進化の興味深い一例です。
松果体ホルモンであるメラトニンの代謝産物 N1-acetyl-5-methoxykynuramine(AMK)を、学習前お
三つ目は、バイオリソースの提供としての意義です。体内時計や睡眠の研究などにおいても、これまではメラトニンを合成できないマウスが実験に用いられてきましたが、本研究において開発したメラトニンを合成できるコンジェニックマウスが今後広く使用されるようになると期待できます。このコンジェニックマウスは、理研バイオリソース研究センターから提供しており注2)、すでにいくつかの大学の研究室において研究に用いられています。
メラトニン(Melatonin)分析 ヒト/ウシ/その他実験動物等・測定対象
演者:笠原 和起 博士
理化学研究所 脳科学総合研究センター 精神疾患動態研究チーム 副チームリーダー
演題:実験用マウスは飼育舎の中で独自の進化を遂げてメラトニンを作らないようになった
日時:平成22年6月4日(金)15:00〜16:30
場所:東京大学理学部3号館4階416号室
メラトニンは松果体において生合成されるホルモンであり、概日リズムや季節性繁殖応答の調節にかかわっていると考えられている。不思議なことに、実験用マウスの多くの系統がメラトニンを合成しない。さらに奇妙なことに、メラトニン合成系の最終酵素HIOMT(hydroxyindole -methyltransferase)をコードする遺伝子が、ゲノム解読プロジェクトの完了宣言後でもマウスからは見つかっていなかった。我々は、ラットHIOMTの配列をヒントに、メラトニンを作るマウス系統C3H/Heから cDNAをクローニングすることに成功した。メラトニンを作れないC57BL/6系統にも遺伝子は存在し、アミノ酸置換を伴う点変異が2ヶ所存在していた。どちらの変異とも、酵素の発現を強く抑制した。FISH解析の結果、遺伝子が性染色体の偽常染色体領域(PAR)に存在することを見出した。PARは組換え頻度が平均的な染色体領域よりも約100倍高いため、変異が生じやすい。このことが、実験用マウスの多くがHIOMT活性を失った原因のゲノム科学的な説明になろう。の変異が飼育舎内のコロニーに固定された生理学的な(飼育者にとっては経営学的な)要因について調べたところ、メラトニンが作れないマウスでは精巣の発達が早くなることがわかった。数多くの系統の遺伝子を調べた結果からも、の変異の固定が偶然のドリフトに起因する可能性は低く、次世代を早く誕生させる独自の進化が人間によって長年飼育された過程に起きたと推測された。
Kasahara T, Abe K, Mekada K, Yoshiki A, Kato T. (2010) Genetic variation of melatonin productivity in laboratory mice under domestication. PNAS 107, 6412-6417.
世話人:理学系研究科 深田 吉孝
[PDF] Osaka University Knowledge Archive : OUKA
3.光周性
日照時間(日長)の変化に伴って生じる生理反応のこと。動物では、生殖腺の季節性の発達・退縮や冬眠、渡りなどが光周性に起因することが知られている。メラトニンは夜間にだけ合成・分泌されるため、夜であることを伝えると同時に、夜の長さを伝えることにもなる。秋冬は血中のメラトニン濃度が高い時間帯が長く、春夏は短くなる。なお、マウスは光周性を持っていないが、野生のマウスは低気温や餌不足のために秋冬には繁殖能力が低下する。
#82086 Melatonin ELISA (RE54021) | 株式会社免疫生物研究所|IBL
コンピューターベースの創薬は、それにかかる時間やコストを削減するためのますます強力な手法となると考えられ、急速に関心が集まっている。今回B Shoichetたちは、メラトニン受容体(MT1)を選択的に標的とする薬剤候補化合物を探す目的で、1億5000万種の化合物のバーチャルスクリーニングを行った。既知のリガンドとはほとんど、あるいは全く類似性のない化合物を優先して調べて、2種類のMT1選択的インバースアゴニストが見つかった。これらの影響を概日リズムでの行動のマウスモデルで確かめたところ、時差ぼけからの体内時計の同調を遅らせるだけでなく、概日時計を最大1.5時間進ませることが明らかになった。この研究は、非常に大規模なバーチャルライブラリーが、in vivoで効果を示す新規な薬物様化合物の発見に使える可能性があることを実証している。