排卵頃から月経まで続く精神症状あるいは身体症状で、月経の開始とともに軽減や消失するものを月経前症候群(PMS)といいます。 ..
性成熟期でも思春期と同様に月経関連症状が最も多くみられます。PMDDはささいな症状も含めるとほとんどの女性が感じており、そのうち社会生活困難を伴うPMSの頻度は5.4%、PMDDの頻度は1.2%と報告されています(欧米では2~4%)5)。PMSの治療として、「産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2020」5)では第1 選択治療にはカウンセリング・生活指導(症状日記、規則正しい生活と睡眠、アルコール制限)、エクササイズ・運動療法など、また低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬も推奨されています(各推奨レベルB、図3)。精神症状が主体の場合は選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が推奨レベルBとして記載されていますが、産婦人科では処方に至らないことも多いため、精神症状が強い場合には精神科や心療内科への紹介を考慮します(推奨レベルC)。就労している方も多い中、月経前~月経中にかけて月の半分にわたり不調を感じる状態は、なかなか周囲の理解を得られにくく、休職を余儀なくされる方もいるため(図4)、産婦人科医が「かかりつけ」となり、月経のストレスを克服できるようにしていきたいと考えています。
また、子宮頸がん検診が推奨されている世代でもあり、パートナーとの関係で性感染症の治療やピルの処方が必要になることもあります。最近では、「プレコンセプションケア」の認知度も高まってきました。プレコンセプションケアとは、女性が妊娠する前から、改めて自身の健康意識を高めることと定義されており、婦人科における健康診断も行っていきたいと考えています。また、不妊症や不育症の治療で頻回な通院を行っても妊娠に至らず、不安やあせり、精神的なダメージを受けている女性も少なくないため、精神的なケアが求められます。さらに、周産期に至った場合はなお一層の精神的なケアが必要です。
性成熟期の患者さんの特徴としては、インターネットなどで心配ごとについて調べて相談に来られることが多くあります。特に、PMS、PMDDが疑われる方は精神科の受診歴がある方も少なくないため、精神科と連携して治療を行っていくことが重要であり、患者さんにもそのように伝えています。
PMSには、排卵後の女性ホルモンの変化が関係していると考えられています。 PMSの ..
うつ病や不安障害などでも、生理前は普段以上に症状が重くなるという人は多いですし、身体の病気も同じです。
月経の出血終了直後~排卵(月経開始14日前後)までに分泌量が上昇し、排卵後は急速に減少します。それに対し、黄体ホルモンのプロゲステロンは排卵後に分泌量が上昇し、月経がはじまると急激に下がります。
今回は、特に精神症状が主体であるPMSに対する治療法について説明します。 ..
更年期はほとんどの人に少なからず症状が出現します。更年期障害を主訴に直接婦人科を受診される方もいますが、身体的な症状で他の診療科を受診されたものの(例えば、動悸で循環器内科、めまいで耳鼻科など)異常が認められず、婦人科を紹介されて受診する方もいます。また、この世代は生活習慣病にも注意が必要なため、内科との連携も必要です。
「産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2020」5)では、更年期障害の診断に際しては、明らかな器質的疾患の存在を否定したうえで、特に甲状腺疾患とうつ病には注意をはらう必要があるとされています(各推奨レベルB)。そのうえで、更年期障害への対応として、受容と共感を表出しながら患者さんの訴えを傾聴することが重要であると記載されています(推奨レベルB、図5)。治療法は多岐にわたりますが、主な症状がホットフラッシュ、発汗、不眠などの場合はホルモン補充療法(HRT)(推奨レベルB)が、不定愁訴の場合は漢方療法など(推奨レベルC)が推奨されています。それぞれの治療法のメリットとデメリットを説明したうえで、患者さんとよく相談しながら治療方針を決定します。
更年期の精神症状に対する薬物療法としては、うつ症状を伴う更年期障害にはHRTを用いるとされています(推奨レベルB、図6)。精神症状が重い場合は向精神薬の使用、うつ状態に対してはSSRIやセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)などの抗うつ薬を用いることが推奨されています(各推奨レベルC)。しかし、これらの処方は産婦人科では難しいことも多いため、希死念慮のある場合や双極性障害が疑われる場合などは、精神科などの専門医に紹介します(推奨レベルA)。希死念慮の確認は躊躇するかもしれませんが、明確に「死にたくなるようなことがありますか?」と訊いたほうがよいと感じています。
更年期障害の診療では、産婦人科と内科、精神科・心療内科との連携が非常に重要であり、各科の専門性を活かしつつ、どのように連携を図っていくかが課題です(図7)。この世代の女性は家庭でも職場でも大きな役割を担っていることが多く、「更年期とは認めたくない」、「仕事をしっかりこなしたい」と思いながらも、心身の不調で期待通りの成果が得られないジレンマに陥りがちです。患者さんの話をしっかり聴き、「なんとか更年期を乗り切りましょう」と声掛けをしながら、ご本人が納得できる治療法を提案することが一番の解決策ではないかと考えています。
米国産婦人科学会によるPMS診断基準では、過去3回の連続した月経周期において月経前5日間に精神的症状(抑うつなど)および身体的症状(乳房緊満感・腫脹など)のうち、少なくとも1つが存在することと定義しており(表1)5)、欧米と同じ診断基準を用いたわが国の研究では社会生活困難を伴うPMSの頻度は5.4%であったことが報告されています6)。
一方、DSM-5のPMDD診断基準(表2)はより厳密で、月経前の1週間に情緒不安定などの症状〔基準B、(1)-(4)〕が1つ以上、そのほかの症状〔基準C、(1)-(7)〕を含めて5つ以上の症状がほぼ毎周期出現し、月経が始まると改善、月経開始後1週間で消失または最小限になること、症状の程度は「日常の仕事・学業などができなくなるほど」とされています3, 4)。さらに過去1年間の症状の有無、診断後の2周期でも症状が認められるか等の条件もあります。
産婦人科医の視点では、PMSとPMDDは連続して起きる疾患と捉えており、PMSとして診療するなかで精神症状が顕著な場合や、月経周期との関連がないと思われた場合には、精神科医に連携を依頼しています。また、PMSとPMDDは個々人で異なり、さらに月経周期ごとに変動することから、明確に区別することは困難であると考えています。
SSRIの中でも以下の薬剤については、PMDDに対する治療効果が示されています。 成分, 薬剤名
PMS/PMDDのリスク因子には、トラウマ、循環気質(気分が爽快となる時期と憂鬱となる時期が変動しやすい)、ストレス、肥満、生活習慣、家族歴などがあります4)。海外では、トラウマがある女性はトラウマのない女性と比較して発症率が4倍以上になるとの報告があります7)。仕事をしている女性、特に仕事の内容や量を自分で調節できない仕事をしている女性では、PMS/PMDDの頻度が高くなります8)。トラウマや循環気質、ストレスなどについては、セルフケアが重要になります。
レクサプロは他の抗うつ剤に比べるとマシですが、身体にお薬が慣れてしまい、急激に減量すると心身の不調が生じてしまうことがあります。
PMS/PMDD診療における注意点、他疾患との鑑別のポイントについて、産婦人科医の視点からいただいた解説をお届けします。
これらが出現した際は、内服の時間帯を変える、食生活、運動などの工夫をしてもらいますが、減量、中止することも多いです。
職場における女性の健康管理の観点からも、PMS/PMDDは大きな問題です。生理休暇という言葉が浸透し、月経時の痛みはある程度理解されていますが、月経以外の時期に女性がPMS/PMDDで悩んでいることについて認知が進んでいるとはいえません。PMS/PMDDの症状は対処が難しく、月経痛よりも持続期間が長いことから、月経痛よりもPMS/PMDDが働く女性を悩ませている可能性があります。
2018年に報告された「働く女性の健康推進に関する実態調査」9)では、女性特有の健康課題や症状によって女性従業員の52%が「職場で困った経験がある」、管理者の34%が「対処に困った経験がある」と回答しており、女性従業員では「月経関連の症状や疾病(月経不順・月経痛など)」が72%、「PMS等」が43%であったのに対して、管理者では「メンタルヘルス」が56%と最も多く、一方で「PMS等」は18%であったことから、PMSが認識されておらず、働く女性と管理者の間でギャップがあることがわかります。
浮腫みに対して アルダクトンA(25mg)1回1錠 1日2回 ..
思春期では、月経不順や無月経、月経困難症などの月経関連症状が多く認められます。多くの方は初経後2年ほど経過してから月経痛が強くなりますが、月経をストレスと感じさせないようケアしていくことが大切です。しかし、「月経痛で登校できない」ことを主訴に婦人科を受診する方の中には、学校に馴染めない、いじめがある、受験が控えているなど、別の要因が隠れていることがあるため、意識して背景を探る必要があります(図2)。
無月経の場合は、背景に摂食障害が存在することがあるため、必ず体重の増減がないかを確認します。思春期はスポーツを活発に行っている世代であり、利用可能エネルギーが不足することにより無月経になり、骨粗鬆症予備群となっていることもあります。「女性アスリートのヘルスケアに関する管理指針」4)などを参照しながら、どのような学校生活を送っているか把握することが大切です。
そのほか、入学試験などのために月経を移動させる必要があり婦人科を受診される方もいます。また、最近積極的な勧奨が再開されたヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの接種も重要です。症例数としては少ないものの、月経がはじまったことをきっかけに性別の違和感を持つ方もいるため、精神科との連携も必要です。
思春期の患者さんは、母親に連れられて来院されることが多くあります。その結果、問診に対してもご本人に代わって母親が答えてしまい、なかなか直接話を聴けないことが少なくありません。
診察の部屋を変更するなど、ご本人から直接聴き取りができるよう工夫して、本当に困っていることや治療に対する希望など、ご本人の気持ちや考えを聴いたうえで治療することが重要です。
PMS)と 月経前不快気分障害(Premenstrual Dysphoric Disorder
老年期でも、夫婦生活に関することや骨盤臓器脱など女性の悩みは継続して存在します(図8)。さらに年齢を重ねると、骨粗鬆症による骨折のために日常生活動作(ADL)に影響が生じたり、生活習慣病なども多く認められるようになります。
老年期の患者さんは、介護をしている家族と一緒に来院される方もおり、患者さんのADLに合わせた治療選択が求められます。人生100年時代を迎え、産婦人科としても「いかに健康寿命を延ばすか」が課題です。老年期を見越して、「かかりつけ」としての診療を続けていただきたいと考えています。
レクサプロ · Pick Up; 女性のライフステージとメンタルヘルス ライフステージに応じた心身ケアの必要性
女性のライフステージは、おおまかに思春期(10~18歳ころ)、性成熟期(18~45歳ころ)、更年期(45~55歳ころ)、老年期に分けられ、それぞれで起こりやすい病気があります(図1)1-3)。そのため、思春期から老年期まで、継続的に産婦人科での心身のケアが必要とされます。
初めての月経(初経)の後は、子宮や卵巣の成熟に伴い、エストロゲンの分泌量が増加し、妊娠や出産に向けての準備が整っていきます。このため、思春期(10~18歳ころ)では卵巣の機能が完成するまで、月経不順や無月経、月経困難症などの月経関連症状が多く認められます。最近では、月経前症候群(PMS)や月経前不快気分障害(PMDD)の認知度も高まってきました。
性成熟期(18~45歳ころ)は、エストロゲンの分泌量が多くなり、妊娠・出産を意識する世代です。思春期と同様に月経関連症状が多くみられますが、子宮内膜症や卵巣嚢腫、子宮頸がんなどの器質的疾患も認められます。
更年期(45~55歳ころ)はエストロゲンの分泌量が急激に減少するため、体内のホルモンバランスが激変し、心身ともに体調を崩しやすい世代です。血管運動神経症状、身体症状、精神症状など、多岐にわたる症状がみられます。症状には個人差があり、その程度も軽症から重症までさまざまですが、日常生活に支障がある場合は「更年期障害」とよばれます。
老年期ではエストロゲンの分泌が乏しくなり、老人性膣炎や骨盤臓器脱など婦人科関連の症状がみられるほか、骨粗鬆症や動脈硬化などの疾患なども多く認められます。
不安障害・パニック障害・不眠症・双極性障害・強迫性障害・月経前症候群 PMS・PMDD ..
これらが出現し、生活に支障が出るようであれば減量、中止を行います。
❖抗うつ薬の中でのレクサプロの位置づけについて教えて下さい? 軽症から重症 ..
PMS/PMDDと鑑別すべき婦人科疾患として子宮内膜症、子宮筋腫、更年期障害があります(表3)4)。子宮内膜症は、慢性的に下腹部痛や骨盤痛を呈し、精神の不安定やいらだちなどが二次的にみられ、月経が始まると痛みが強まることから、PMS/PMDDと比較的鑑別しやすい疾患といえます。一方、子宮筋腫では、月経前にしばしば筋腫が増大し、腹部膨満感や痛みが出現するため、PMS/PMDDと類似した症状が現れます。
また、40歳代の女性については、疲れやすさや気分の落ち込みを訴え、更年期障害を疑って受診した方がPMS/PMDDであることは少なくありません。PMS/PMDDと更年期障害は相互排除的なため、産婦人科医にとって鑑別は難しいものではありません。しかし、40歳代は月経が不規則になる年代であることから、他領域の医師には注意していただきたい疾患です。
そのほかPMS/PMDDと鑑別すべき内科的疾患として、甲状腺機能異常、神経疾患、心疾患などがあり、これらの疾患では慢性疲労症候群、線維筋痛症、片頭痛、過敏性腸症候群などといったPMDDと類似した症状を呈することもあります。
セロトニンの不足は不安感や気分の低下を増強させることから、レクサプロ ..
加味逍遙散は虚証から中間証で様々な症状が体中を歩き回り逍遙するようなケースに奏功します。漢方の安定剤ともいわれ基本処方です。柴胡加竜骨牡蠣湯はもともと実証の方に適応ですが、やせていても症状が激しく「症状が実」の時は奏功します。ヒステリーのようなイライラ、落ち込み、育児のストレスに有効です。当院では比較的処方数は多いです。
ニュージーランド・オークランド大学のJane Marjoribanks氏らは、月経前症候群(PMS ..
セロトニンの受容体が脳にあることで抗うつ効果や抗不安効果などが期待できますが、消化管(胃や腸など)にもセロトニンの受容体があるため、吐き気や下痢症状が現れることがあります。これらの副作用は投与初期に生じやすいですが、しばらくすると自然に軽減することがあります。軽度であれば内服を継続することもあります。しかし、副作用が強く出る場合は、無理せずに中止をしてもらいます。
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当院では、女性のための「かかりつけ」クリニックを目指して、周産期、婦人科、ヘルスケアの3分野に対する診療を行っています。
婦人科での取り組みとして、Web問診を行っています。来院前にオンラインで回答いただくのですが、主訴に合わせた質問を設定することで、来院理由に合った情報を把握できます。さらにPMS/PMDDの診療では、症状日誌の記録が重要となるため、カレンダー形式のアプリを活用しています。患者さん自身が月経周期と症状を記録することで、変動の周期性への気づきにつながります。そして、その周期性に合わせて行動パターンを変えることで、症状と付き合えるようになります。
また、当院では女性のためのメンタルヘルスとして、女性心理士によるカウンセリングを実施しています(図3)。産婦人科(当院)が初診となる患者さんに対して、精神科領域に関わる症状について心理士が問診を行っています。とくにPMS/PMDDは婦人科領域、精神科領域にまたがる疾患であるため、各領域の医療者が協力して対応することが望まれます。
PMS/PMDDは女性のライフサイクルに応じて様々な問題が現れるため、切れ目のない、きめ細やかなヘルスケアを行う必要があります。そのため、「かかりつけ医」による診療が望ましいとされています。当院では女性のための「かかりつけ」になるために、クリニックを身近に感じてもらえるよう、受付スタッフや看護師が積極的に声掛けして、気軽に話ができる関係性を作るよう努めています。
月経前の不快な症状の中でも、憂うつ気分や不安などのこころの症状は日常生活に支障を来たすことが多く、問題になります。
SSRIはヒスタミン受容体をブロックする働きがあるため、眠気が出ることもあります。一方で別の受容体に作用すると不眠が生じることもあります。真逆な副作用ですが、個人によって出現する場合としない場合があります。眠気が出る場合は、夕方や眠前に内服をする場合や不眠がある場合は朝に内服をしていただくことがあります。それでも改善がなく、生活に支障がある場合は減量や中止をします。